秘密の地図を描こう
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三人での暮らしは、意外とスムーズに進んでいた。
「レイ」
今にも出かけようとする彼をキラが呼び止める。
「何でしょうか」
「これ」
振り向いた彼に、キラは手の中のデーターカードを差し出した。
「一応、直しておいたから。不具合が出るようなら連絡してって」
ミゲルに、と彼は続ける。
「隊長に、ですね。わかりました」
預かります、と彼はうなずいて見せた。
「でも、キラさんもあまり無理はしないでください。いいですね?」
顔色、悪いですよ……と言い残すと、レイは足早に出て行く。
「……遅刻しないといいんだけど」
その後ろ姿を見送りながら、キラがこう呟いた。
「大丈夫だろう。あの子はあれでも要領がいい」
それよりも、と言いながらラウは彼に近づく。
「本当に顔色が悪い。無理をしたのではないかね?」
逃げられないように彼の肩に手を置くとこう問いかけた。
「そんなことは……」
こう口にしながら、彼は視線を彷徨わせている。つまり、自分でも無理をした自覚はあると言うことだ。
「キラ君?」
にっこりと微笑むと、彼は小さく肩をふるわせた。
「正直に話してくれればお小言は言わないつもりだがね」
それとも、お小言の方がいいのか……とラウは言葉を重ねる。
「ミゲルが……」
渋々といった様子で彼は口を開く。
「このままだと、実際に戦場に出たときに不具合が出そうだって言っていたし……」
それに、と彼はため息とともに言葉を重ねる。
「地球軍の動きに不審な点があったので」
つまり、彼はまた地球軍のマザーにハッキングを仕掛けたと言うことだろう。
「それについては後でゆっくり聞いた方がいいね」
目を離すとこれか、と心の中で呟きながらも、唇では別の言葉を綴る。
「まずは、君は一眠りしてきなさい」
倒れられると困る、と彼は続けた。
「すみません」
即座にキラは謝罪の言葉を口にする。
「怒っているわけではないよ。ただ、少しは自分のことも考えてほしいだけだね 」
本当に、あの男はどうやってこの子供を上手くコントロールしていたのだろうか。それとも、彼もさじを投げていたのか。どちらだろう。
「まぁ、地球軍の動きに関しては、ニコルに押しつければいいか」
彼の方が本職だし、と続ける。
「そういえば、午後に来るそうです」
「あぁ、そう言っていたね」
ものすごくいやそうな表情でそう告げていた、とラウは笑う。
「ラウさん?」
どうかしたのか、とキラが問いかけてくる。
「いや。あのときの二人の表情を思い出しただけだよ」
キラの引っ越しを手伝った二人が自分の顔を見たときの、と彼は続けた。
「ラウさんが二人をいじめただけではないですか?」
言葉とともに彼は首をかしげる。
「そんなことはないよ。少なくともニコルはね」
ミゲルはしごいた記憶があるが、と彼は笑った。
「まぁ、いい。彼が来たら起こしてあげよう。だから、それまで眠っていなさい」
「……はい」
この言葉に彼は素直にうなずく。そのまま体の向きを変えて背中を押してやれば、まっすぐに歩き出した。
「転ばなければいいが」
もっとも、そのときは自分がフォローしにいけばいいだけのことか。そう考えながら、彼の背中を見送った。